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「───え、
良、」
朝、ランドセルに詰め込んだ紺色の傘で顔を隠して。
骨張った膝頭だけが隠れ切れずにもぞもぞと揺れている。
「どうしたの、こんな所まで」
膝をついて、下から彼を覗き込むと、
良は目を決して合わせようとせず───、言った、
ひどく小さな声で。
「迎えに、」
言葉は続かず、そこで消えた。
ああ、なんて───。
俺は良の洩らす言葉に殺されてしまいそう。
抱きつぶしてしまいたい欲求を堪えて、やさしくやわらかく、弟の手のひらを取った。
「、庸介??」
「手、繋いで帰ろう」
囁くと、弟は耳まで紅くして、
「今日だけ、なっ」
、顔を背けてしまった。
肌寒い季節、なのに穏やかな雨は確かに春を連れて来ている。
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