゚. 想い .゚

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  「私…は…記憶が…もうすぐなくなっちゃう、から…」   「………」     凜の言葉に俺は沈黙するしかなかった。     やっぱり…   嘘なんかじゃなかったんだ。     凜がアルツハイマー型痴呆である事は。   紛れもない事実だったんだと、俺は思い知らされた。     「だから…私に告白してきた人達は全員…   “記憶がなくなる女なんかと付き合えるか”   って、私の病気を知った瞬間、離れて行っちゃって」     凜は辛いのに、それに1人で耐えてたのかな?     「でもそれで良かったのかなとか思って…   だって私、誰かに愛された事や誰かを愛した事も忘れちゃうの、怖いし…」     凜はそんな悲しみを1人で抱えてたのかな?   今の今まで…     「私の病気のせいで…!私を愛してくれた人を傷付けるのが嫌なの…」     凜はどんな境遇でも優しさを忘れてないんだね?     君は…優しすぎるんだよ…。     でも、   でもな、凜。     「そういう凜だから俺は好きなんだよ」   俺は凜にそう告げた。   貫き通したかった初めての想い。   失いたくなかったから。     「好きなんだよ…凜の事…」   「翼…」     凜、俺は約束する。   君の弱さ、辛さ、悲しみ、苦しみ、全てを包み込んで、君を笑顔にさせる事を。     君を受け入れる事を。     俺と凜の間には静かな葉ずれの音が響く。     凜は俺の言葉に、迷うように目を泳がせる。     だけど、俺は待つよ。     凜が答えを言えるまでずっと待つ。     「翼…」   ようやく凜が口を開いた。     緊張のせいか俺の背筋にしびれが来る。         「翼…私の事、よろしくお願いします」         凜はいつもの笑顔で頭を下げた。   よろしくお願いします、って…   もしかして凜、俺の想いに答えてくれたのか…?    
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