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紺と白の袴に身を包む少年は、風に揺られる彼岸花を眺めている。
どこから吹くのかわらない風は少年の頬をなで、長い黒髪を微かに乱す。
「母さん、あの子は起きた?」
後ろの母に問う。
「いいや」
──
───
────…
目覚めた絵梨の目の前には、木材でできた部屋の屋根があった。
(ここはどこだろう…。鬼は!?)
見渡すと一人の老婆が居て、糸を巻いていた。
今の時代ではあまり見る機会のない着物を着ている。
まるで昔にトリップしてしまったようだった。
「起きたかい?」
声をかけるか迷っていた絵梨に気づいたのか、先に口を開く。
老婆の声は凛としているが、はっきり届いた。
きれいな声だなと感じる。
「あの、ここは貴女のお宅でしょうか?」
「ええ」
老婆は顔を動かす様子もなく、声のみで応じる。
「私は絵梨といいます。何で私はこちらに?経緯をお知りで?」
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