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JElly FIsh
蒼い世界に
浮遊する彼は
むかしから知ってる
誰かに似ていて
いや もしかしたら
その誰かが
彼になったかもしれないし
彼が
その誰かだったかもしれない
ただの勘違いだったかも
しれないけれど
彼は
温かいココアから
のぼる煙と一緒に
ワルツを踊ってるみたいだった
わたしは
眠れない夜に
一度だけ
彼に
つぶやいたことがある
「きみはだれだい」
すると彼はこちらを向いて
ふわふわ泳ぎながら
「さあね」
なんて答えた
わたしは
なんとなく
寂しくなって
泣きたくなるのを
こっそり我慢して
冷たいガラスに
手を触れた
「なぜここにいるの」
吐息とともに
ガラスを白くしながら
そんな言葉を言うと
くるりと回って
彼は言った
「気づいたらいたのさ
きみが
呼んだんだろう
ひとりきりが
寂しいと云って」
ふわふわ
ふわふわ
彼はきっと
触れられないのに
わたしには
あんまりにも
やさしく見えて
どうしようもなく
抱きしめたくなった
けれど
近づきたいと思えば
思うほど
ワルツのリズムとともに
彼は遠のいていく
やがて米粒くらいになる
そのときに
耳元で彼の声が
やけに鮮明に聞こえた
「ほんとうは
きみが
ぼくを
思い出せないだけさ
きみは
ぼくの名前を
ずっと前から
知っているはずだ」
ああ
そうか
思い出した
彼の名は
「 」
その瞬間に
目が覚めて
その余白の答えを
失ってしまった
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