黒い影

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そんなに幼い頃の記憶はなかったし、 物心ついてから命の危険を感じたこともない。 母親の話は、自分とは縁遠い世界の話に聞こえた。 確かなのは リビングに飾られている写真の中で微笑む、 やたら爽やかでやたらハンサムな男性が父親なことだけだ。 「ママってさ…面食いだったんだね」 「はる香だって!龍介くん男前じゃない。 どことなく翔(かける)に似てるし。」 はる香の母親…薫(かおる)はそう言って笑った。 「違うよ!私は龍介の優しいとこが好きなの!」 そう言って頬を膨らませながら、はる香はどこかで感じていた。 自分が父親の影を追いかけていることを。 記憶の片隅に残る、幼い自分を抱き上げた父親の、ひだまりのような笑顔。 それが龍介の中にもあるような気がして、告白を受け入れたのだ。 事実龍介は優しく、はる香にとってひだまりのような存在となった。
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