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篤司は食器を運ぶ時、つまづいて皿を割ってしまった事が何度もある。
そのたびに伯父は篤司を殴った。
掃除がきちんとできていないと伯母に厭味を言われ、ことあるごとに篤司は肩身の狭い思いをしていた。
だが、もともと器用な篤司は、失敗をするたびに少しずつ学んでいき、伯父の家に引き取られてから2年ほどで、失敗はなくなった。
伯父は失敗をしない篤司がつまらなかった。殴る相手を探すように、伯父はわざと机の位置を変えたりした。
篤司が気付かず机につまづくと、待っていたように伯父の拳が篤司の頬を青くした。
そんな生活の中で、篤司の視覚以外の感覚は研ぎ澄まされていった。
そのぶん毎日精神的に疲れ果ててしまったが、その苦労を文句も言わず乗り越え、今では物音がした場所と距離を正確に判断できるし、体内時計もかなり正確に動いている。
もう10時30分を過ぎた頃だろうか。
そろそろ伯父が部屋にやってくる。
週に1度、伯父の酒の相手をする。
伯父は土曜日の仕事帰り、居酒屋で飲む。その2次会が狭い篤司の部屋で開かれるのだった。
もちろん、伯父は篤司と飲みたいわけではない。
篤司を説教し、殴り、罵りながら飲みたいのだ。
「おい、篤司。飲むぞ」
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