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今日も篤司は理不尽な暴力を受けながら、ある決心を心の中で復唱した。
もう1年以上前から決めている事だった。
中学を卒業すると同時に、家を出る。
行くあてはそれまでに見つけるつもりだ。
盲目の男が一人で家を出るなんて、普通に考えたら危険な事だ。
だが篤司にとっての家とは、肉体的、精神的暴力を受けこきつかわれる場所でしかなかった。
外でやっていくのに不安はある。しかし自分は人並み外れた感覚をもっている。
学校の帰り道などでも1度も事故をしたり危ない思いをした事はない。
篤司は、人の気配が読めるというか、周りで起こっている事が手にとるようにわかるようになってきたのだ。
その自信が、家を出る決心へと導いた。
1時間と少し。宴会が終わり、伯父は篤司の部屋を出て行った。
1人、傷に絆創膏を貼る。伯母は伯父の暴力を知っていて、見て見ぬふりをしている。
この生活を続けていくうちに、篤司は心の中から様々な物を排除して行った。
余計な感情は身を危険にさらすだけ。友人などをつくっても、彼らは目の見えない自分に対して、中途半端な優しさをみせるだけ。もちろん家族などいないのと同じだ。
孤立する心に、篤司はさらに厚い壁を作っていった。
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