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この日が無ければ、篤司の人生はまた違ったものになっただろう。
その日の中学での授業が終わり、いつものように篤司は帰宅途中の道を、まるで目が見えているかのように足早に歩いている時だった。
背後から声が聞こえた。
「新堂篤司くん」
この低めで鼻にかかったような声には聞き覚えがあった。が、篤司は特別教室以外の生徒と全く関わりをもってなかったので、名前はわからない。
印象として、不良グループみたいな集団の一人、という程度だ。
篤司は振り返った。
その生徒は篤司に手招きをして、ちょっときてくれないかと言っている。
もちろん篤司には見えてはいないが。
「何の用だ」
ぶっきらぼうに答える篤司。相手が不良だからといって媚びるつもりは毛頭ない。
むしろ、自由に目が見え、やりたいことをやりたいようにやり、授業の時間に廊下を走り回るような男は大嫌いだった。
篤司の事を知らない不良の男は一瞬たじろいだ。
まさか俺に向かってそんな口をきく奴だとは、といった感じで。
「ちょっとこいって言ってんだよ。話がある」
「ここで話せばいいだろう」
退かない篤司に男は声を張り上げた。
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