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「おまえ、たかゆきの財布盗んだだろ!知ってんだぞ、おまえ義理の親に育てられてんだろ?小遣いもらえず暴力ばっか受けてるからって、人の金を盗んのかよ!」
男は一気にそう言い終えると、無表情で微かに眉をひそめた篤司に向かって続けた。
「たかゆきが一階のトイレの外にカバンを置いてクソしてる時におまえがいたのを見たって奴がいるんだよ!クソする前までは確かにあったんだ、なぁたかゆき!」
身障者に対する偏見が篤司には感じとれた。
たかゆきと呼ばれた男もまた、声を張り上げた。
「おぉ!確かにトイレから出てカバンの中見たら無くなってたんだ!でもさぁヒロ、他人の前で、クソしてたとか言うなよ…」
依然として篤司に睨みをきかせているヒロは、たかゆきの嘆きを無視し、篤司に近づいた。
1歩、2歩。
相手が近づいてくるのが篤司にはわかった。
「ちょっと身体検査させてもらう」
そう言って伸ばした手を、篤司は正確に払いのけた。
相手の声と足音、そして気配が読めた。
篤司にとって、気配の読みにくい人は読みにくいが、ヒロという男は読みやすい男に分類された。
ヒロが今起きた事に驚いているうちに、篤司は間髪いれず、そして静かに言った。
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