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手には何か長細いものを持っていて、月夜に照らされ時折光を放っている。
その先端からは、黒い雫がぽたぽたと滴り落ち、床を濡らしていた。
篤司は声と気配を殺し、目を瞑った。
恐らく体が危険を感じ、本格的にそうさせたのだろう。
恐怖に震え、叫ぶ体を無理矢理黙らせ、薄目でうろつく男の行方をうかがった。
母さん、父さん、孝司。どこにいるの?
恐いよ…助けてよ――
そこへ突如、同じドアから違う男が入ってきた。
しかも2人。
1人は中肉中背。1人は小太りで、みな同じ黒っぽい服装に見える。
小太りの男が、先に部屋に入ってきた長身の男に近づき、話しかけた。
「もうやったのか」
長身の男は、親指で篤司を指差し言った。
「いや、ガキがまだ1人、薬で眠ってる」
篤司は思わず目を閉じた。
自分が薬で眠らされていたであろう事、他の家族がどうなったのか、自分はこれから何をされるのか――
気になる事が頭の中を巡ったが、幼い篤司には、涙をまぶたの裏に閉じ込める事しかできなかった。
小太りの男の声が聞こえる。
「あれは手に入れたのか」
長身の男が黙って頷くのを見ると、小太りの男は続けて言った。
「さっさとガキを始末して車へ戻れ」
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