234人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言うと長身の男は、仰向けに倒れた篤司の顔めがけて、刃物を振った。
その様はさながら居合抜きのように、横一直線の動きだった。
篤司は一瞬、何が起こったのかわからず、体は全ての動きを止めた。
だが、すぐに感覚は蘇ってきた。
身に起こった事を考える間もなく、激痛という陳腐な言葉では表現できない、恐ろしく鋭利な、そしておぞましい痛みが篤司を襲った。
篤司は声にならない悲鳴をあげ続ける。
痛いという感覚を通り超した、未体験の恐怖だった。
男たちは近づくサイレンの音に追われるように、外に停めてあった車で逃げていく。
エンジンの音が高級住宅街を走り抜けていったが、篤司の耳には自分の悲鳴しか聞こえなかった。
自分がどうなったのかわからない。
目のあたりが溶けるように熱い。
何も見えない、何も考えられない。
ただ1つ、はっきり覚えている。
篤司が最後に見たのは、眼前まで迫りくる、月夜の光を反射し輝く
刃物の先端だった。
最初のコメントを投稿しよう!