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少女は、僕の荒い口調に驚いたのか、びくりと小さな肩を震わせる。靴は履いていなかった。白くて華奢な足の膝下辺りまでが、砂埃で汚れている。僕は、喩えようのない不快感を抱いた。
足早に少女へ近寄るなり、剣の切っ先を向け、強く言い放った。
「どこから入ってきた!?」
僕の態度に、少女はまたも肩を震わせる。怯えた姿はまるで、罠にかかった小動物のようだ。不安そうな視線をあちこちに泳がせている。
「…み…湖の向こうから。
小舟に乗って、星空を眺めながら寝ちゃったら、いつの間にか、ここに辿り着いてて…」
少女の回答に、ますます不信感が募る。
「嘘をつくな! そんな事はありえない!」
「ほ…本当だもん! 嘘じゃないもん! どうしても信用できないなら、実際に見てみてよ! 本当だから!」
少女は震えながらも、必死で主張した。零れ落ちそうなほど大きな空色の瞳に淀みはなく、虚偽を一切感じさせない。
それでも信じられずに、空いた左手で少女の肩を掴んでみれば、確かな感触と温もりを感じた。思わず息を呑んだ。
「痛い! やめて!」
身を捩じらせ、僕の手から逃れた少女は、数歩下がって、今にも泣きそうな表情で僕を見上げている。
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