第一章 ~始まりの声~

9/11
前へ
/14ページ
次へ
 僕は言葉を失った。  世界と切り離されたはずのこの場所に、何故か辿り着いた小舟と、少女。  ありえない。ありえない事だった。少なくとも、これまでは。  「ね。本当でしょ? 私の事、信じてくれた?」  少女が僕の深蒼のマントを引っ張り、楽しげに微笑う。  「…嘘、だ。こんな…こんな事が…」  「嘘だったら、この小舟はないでしょ?」  「…それは、そうだが…」  未だに事実を受け入れられない僕に、少女は不満そうに眉根をひそめた。  「もうっ。素直じゃないなぁ、お兄ちゃん。『確かめる』って言ったのは、どこの誰?」  「確かに、そうは言ったが…」  「ストーップ。お兄ちゃん、そこまでっ。いい加減に信じてよね。本当なんだから」  少女にそう言われて、再び、重い息を吐いた。  この状況を目にした以上、少女の話を信じざるをえないのは確かだ。それにしても、一体どうしてこのような事が起きたのだろうか。頭を巡らせど、全く想像もつかない。  とりあえず、今は、考えても結論を出す事はできないと思い直し、改めて少女を見やった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加