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「……お前、名前は?」
その一言で、少女の瞳が輝きに満ちた。満面の笑顔を浮かべて、はっきりと答える。
「私は、ニール。お兄ちゃんは?」
僕の名前。
それを口にするのは、どれほど久しいだろうか。正確な答えなど、もはや導き出せまい。
「名前、か。僕の名前は………」
『ヴェイク』
ふいに、とある記憶が脳裏を掠めた。
ずっと思い出す事のなかった、リチアの声。リチアが僕の名前を呼んで微笑む姿、だった。
こんなにもリチアの事を想っているのに、その声の記憶さえも、忘却の彼方に埋められていて。
蘇った記憶に戸惑いすら感じられるが、胸に染み渡っていくのは、二度と感じる事はないと思っていた、“喜び”という名の感情。
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