EP.1 鼓動

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シェイスは二重に掛けた錠を外し、碧光(へきこう)を纏う手で扉を開ける。 魔障壁(ましょうへき)で護られている扉は、特定の魔力を流し込まないと開けられない仕組みとなっている。 たとえ外部から侵入者が来たとしても、侵入はもちろん、壊すことすら困難だ。 「……妙ね」 城の中央部に繋がる連絡通路は、暗闇に飲み込まれており先が見えない。 人の動きを感じると、明るく照らすはずの燗応石(かんおうせき)は、眠りについているかのようだ。 「これは──黒髏界(こくろうかい)の門!」 「黒髏界(こくろうかい)?」 聞き慣れない単語に、シェイスは首を傾げる。 「死煉(しれん)峡界(きょうかい)の先にある世界なんだが……説明は後だ! すぐに戻れ、でないと──」 クルスが言い終える前に、強烈な異臭がシェイスの鼻を刺激する。 古びた鉄と腐った油を混ぜ、燃やしているかのような、()せ返るような匂い。 続いて、目の前の通路が沸々と白く泡立ち始めていく。 ロザーヌ産のベルン・コスティをグラスに注がれた場面が、シェイスの頭を(よぎ)った。 「ワイン好きのお父様でも好まないわね、これは」 シェイスが鼻を覆った時、煮えたぎる廊下の底から白銀の塊が姿を現した。 「何かしら……?」 輝光石の一つを天井へと投げると、周囲は真昼のように明るく照らされる。 広々とした廊下は、見覚えのある鎧の群れで埋め尽くされていた。 「城内(うち)の兵士たち……?」 獅子の紋様が胸の部分に彫られているのが確認できる。 ガルバンヌに仕えるものにしか支給されていない特別製の鎧だ。 「あなた達、ここで何をしているの?」 シェイスの問い掛けに返答はなく、まるで動く気配のない軍団。 鉄マスクで覆われた頭部の奥で、蒸気のような音が出されている。 「呼び掛けても無駄だ。 そいつらはシキと言ってな、死んだ奴の身体を奪って操る凶霊獣の一種だ。 召喚された直後は行動出来ないんだが、そろそろ来るぞ……!」 クルスの言葉を皮切りに、集団がゆっくりと動き始めた。
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