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シェイスは二重に掛けた錠を外し、碧光を纏う手で扉を開ける。
魔障壁で護られている扉は、特定の魔力を流し込まないと開けられない仕組みとなっている。
たとえ外部から侵入者が来たとしても、侵入はもちろん、壊すことすら困難だ。
「……妙ね」
城の中央部に繋がる連絡通路は、暗闇に飲み込まれており先が見えない。
人の動きを感じると、明るく照らすはずの燗応石は、眠りについているかのようだ。
「これは──黒髏界の門!」
「黒髏界?」
聞き慣れない単語に、シェイスは首を傾げる。
「死煉の峡界の先にある世界なんだが……説明は後だ!
すぐに戻れ、でないと──」
クルスが言い終える前に、強烈な異臭がシェイスの鼻を刺激する。
古びた鉄と腐った油を混ぜ、燃やしているかのような、噎せ返るような匂い。
続いて、目の前の通路が沸々と白く泡立ち始めていく。
ロザーヌ産のベルン・コスティをグラスに注がれた場面が、シェイスの頭を過った。
「ワイン好きのお父様でも好まないわね、これは」
シェイスが鼻を覆った時、煮えたぎる廊下の底から白銀の塊が姿を現した。
「何かしら……?」
輝光石の一つを天井へと投げると、周囲は真昼のように明るく照らされる。
広々とした廊下は、見覚えのある鎧の群れで埋め尽くされていた。
「城内の兵士たち……?」
獅子の紋様が胸の部分に彫られているのが確認できる。
ガルバンヌに仕えるものにしか支給されていない特別製の鎧だ。
「あなた達、ここで何をしているの?」
シェイスの問い掛けに返答はなく、まるで動く気配のない軍団。
鉄マスクで覆われた頭部の奥で、蒸気のような音が出されている。
「呼び掛けても無駄だ。
そいつらはシキと言ってな、死んだ奴の身体を奪って操る凶霊獣の一種だ。
召喚された直後は行動出来ないんだが、そろそろ来るぞ……!」
クルスの言葉を皮切りに、集団がゆっくりと動き始めた。
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