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粉塵の撒き散らされた洞窟内。
轟々と音を立てて燃え盛る炎の中心に、細長い影があった。
「危うく消炭にされるところでした。
なるほど、ここが境界線というわけですね」
手袋からは煙が立ち上っているが、身体は傷一つ負っていない。
血のように赤い瞳が、やがて色味を失って灰色へと変わっていく。
「ふむ……魔力の流れからするに核は柱の中心部、あの鉱石ですか。
あれほど高密度で広範囲の攻撃、さすがに連続での使用は不可みたいですね。
ならば──」
男はブツブツと呟き、見えない壁に左手を押し当てる。
指先から深紅の糸のようなものが現れたかと思うと、それは激流のごとく一気に壁へ張り付いていった。
浮かび上がるシルエットは巨大化した蜘蛛の巣のそれと変わらない。
「さて、これでどうなるか」
男が一歩引いて離れると、網目状の隙間から再び強烈な輝きが見えた。
激しく火花が散り、続いて地面が揺らぐほどの大爆発が内部で起きる。
「ほう、ここまでの威力とは……!」
光はやがて収束し、壁が消失する。
柱もひび割れ、ほとんど崩れ落ちていた。
「絶対防御とて、己が放った力を倍にして返されては受け切れませんか」
真っ二つに割れた虹色の鉱石を拾い上げ、表面を擦るとわずかに空間が歪んだ。
「まぁ、変化する世の中では絶対など存在しないということですね。
貴重なサンプルも手に入れましたし、ここにいる必要もないでしょう。
ククク……」
男が踵を返した時、背後で追い風が吹いた。
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