Ⅶ-Ⅰ 一つ一つの言葉

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犬に名前がつき喜ぶエイナたちを見て、アグニはふと優しい笑みを漏らした。 だが同時に思い出すのはあの記憶… 二週間前、あの戦いの後、犬を連れていく事に決めたあの後の深夜。 ムルタ国中央部にてニルティらが確認した謎の建造物を目指す、今のアグニたちの行動を決めた出来事。 深夜。皆が寝静まったその空気の中、アグニの夢中にある人物が現れた。 「アグニさん…」 その声はどこから聞こえるのだろうか。アグニは何もない空間に立ち、周りを見回した。 「…誰だ…?」 アグニの目の前で、何か人間のような物が微かな光を持って現れた。 「…言いたいことを伝えにきました。長くは話せません。でも…聞いて…」 今にも消えそうなその光の声に、アグニは聞き覚えがあった。 「レイ…?レイ…なのか…?」 ケロップが重傷を負い、そして行方不明になったレイ。アグニは思わぬ人物の言葉に驚く。そしてこれが夢でないとも感じていた。あまりに意識がはっきりしている。 「…はい。…ゼルファスという男の野望について…聞いて下さい。私の意志が消えるのはすぐだから…」 「…ああ。」 ゼルファス…ニルティが言っていたその名前を、アグニは心中で繰り返す。例の組織のボスで、危険な男だと聞いた。 「彼は…神と成り、世界を滅ぼそうとしています。」 レイのか細い声はそう言った。 「…神に…!?」 「詳しくは知りませんが、彼はこの戦いの事をずっと前から知っていて、準備してきたのだろうと思います。そして組織を作り上げ、「私」を作った…」 レイの言葉に、アグニは困惑する。 「お前を…?」 レイは、時間が立つにつれ苦しそうな声になっていく。 アグニは、行方不明になったレイを心配してはいたが、神の戦いに関係しているとは思っていなかった。 嫌な予感がアグニの胸をよぎる。
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