53人が本棚に入れています
本棚に追加
夜もだんだんと深まってきた。気が付けば辺りに光などない。
迷ったか。
幸村は思った。
何度か暗闇の中に光を見つける度に近づいていくのだが、幾度となく全て、消えてく。……目の迷いだったのか。その度に心中で呟いた。漆黒の闇の中、迷ってから早一刻が過ぎようとしていた。迷ったのは屋敷の裏の山。分かっていた場所であったし、すぐ戻るといっていたから大丈夫だろう。
――しかし、そう思ったのがいけなかったのだ。
夢中で兎を追いかけていたら、草に足をとられて怪我をしてしまった。軽い捻挫程度だろうが、今は歩くのにも一苦労という状態。
「疲れたでござる……」
大きく溜息をついて、近くの木に背中を預ける。空を見上げれば、葉の隙間から月光が差し込んでくる。と同時に寒風が木の葉を揺らした。
寒い…。
暖を取ろうとするも回りには何もない。仕方ない、と幸村は膝を抱え、身を小さく縮めた。ふっ…。瞼を閉じれば、睡魔は疲れとともに襲い掛かってくる。明日になれば迎えが来る。それまでの間だけ……。
『……のやろ!……』
「!!」
ふいに幸村は顔を上げた。立ち上がれば、辺りをきょろきょろと見回す。
――何か、聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!