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「痛、ッ……!」
襖が開け放たれたままの私の部屋。もし誰かがここの目の前を通ってしまえば、私の姿はその人物に見られてしまうのに。それなのに殿は、ぎり、と音がする位。きっと私を逃がすまいとして、両手首を片手で強く畳に押し付けている。部屋にやって来て早々人を押し倒し。――一体殿は何がしたいのだ?
片手で押さえ付けているにも関わらず、抵抗しようにも力が強すぎててんで相手にならない。余りにも突然のことに混乱する意識の中、まだかろうじて残っていた冷静さは「(ああ、これでは紅く痕が残ってしまうかもしれないな)」なんて下らないことを考えていた。
「ッ……」
耳に伝わってくる呼吸はとても荒く、外から射し込む日光のせいで逆光になり、表情がよく見えない。それに、何度「殿」と呼び掛けても言葉を返してくれなくて。ただ、今の殿に私はいつもの部下を思う優しさよりも、じわじわと襲い来る恐怖しか感じる事が出来なかった。
「との…」
「景綱」
幾度目かの呼び掛け。漸く殿は言葉を返してくれた。それも酷く優しい声色で。ただそれだけのことなのに、私は安心してしまった。いつもの殿だ。ふっと肩の力が抜ける。
――きっと殿は、この瞬間を見計らっていたのだろう。
言葉を吐く暇も与えぬまま、殿の顔が目の前に、そして唇には柔らかな感触。大きく見開かれた眼は、確かに悲しげに歪んだ殿の表情を映し出していた。
「――――」
一度唇が離れる。殿、と呼び掛けようとしても、私に隙を与えぬまま、幾度も幾度も触れるだけの唇が重ねられる。(そしてその度、私の中で小十郎殿のことが頭を過った)一体何れ程私の中で小十郎殿が大きな存在となっていたのだろうか。一体、何時から…。
そんなことを考えていると、私の思考を遮るように、殿の舌が首筋を這った。
「っ、あ……!」
高く声が上がる。抑えたいのに、殿が両手を押さえ付けているせいで口さえ塞げない。殿はそんな私の声を、反応を楽しむように今度は空いていた片手を服の隙間から差し込み、胸板を撫で始める。それに伴い、段々と私の服を脱がしていき、胸板、腹筋、脇腹と手を動かす。ぞわぞわと背筋を何かが昇ってくる。それに合わせて身体が火照り始め、息が荒くなる。
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