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(嫌だ。助けて)
声にならない声が訴える。殿は気付いているのかいないのか。ただひたすら私の身体に指を這わすことだけに集中していた。
「止めてください」ただ一言そう言えば良いだけなのに、言葉は喉でつかえてしまう。主に対する躊躇いのせいか。余りにも強い殿に対する忠誠心、こんな時なのだから捨ててしまっても良いものを。相手が殿というだけで躊躇ってしまう自分が嫌になってしまった。
「景綱……」
「あ、あ――!」
必死になりながら私を呼ぶ声、そして布擦れの音。いつの間にか下半身の衣服が剥ぎ取られ、つぅ、と内股を指でなぞられた。徐々に指が身体の中心へと上がってくる。肩が震える。抵抗したいのに、意識とは裏腹にもう火照ってしまった身体はそれを忘れてしまったかのように殿のなすがままになっていた。これ以上は、相手が殿であろうと、嫌……!
「政宗様、お戯れはそこまでです」
殿の肩越しに声が飛んできた。私はその声を、知っている。――ああ、もう。こんな姿、見られたくなかったのに。
「……遅かったじゃねえか小十郎。もう少し来るの、遅くしても構わなかったんだけどな?」
「それは残念でしたね」
冷たい声の返事に、殿は小十郎殿の方を振り向き、やっと私の手を離してくれた。ああ、手首がひりひりする。私も顔を向けると、私から見て殿の横顔の向こうに無表情で私と殿を見下ろす小十郎殿がいた。私に向けられる冷やかな視線。何となく、訴えていることは分かっていた。何故こんなにされるまで抵抗もせずにいたのだ、と。震える唇は、小十郎殿に何も言うことは出来なかった。
私を一瞥すると、小十郎殿は殿の目の前で膝を着いた。
「政宗様」
「Ah?」
「……これからの無礼を、先にお詫び申し上げます」
パンッ――!
殿が言葉を返す暇も無しに、乾いた頬を叩く音が部屋に響いた。横に振られる殿の顔。小十郎殿の手は、殿の顔があった辺りに上げられていた。
「何故このようなことをなされたのです!?」
「Shit……。お前は自分のLordに手をあげるような奴だったのかよ」
「いくら俺が政宗様の従者とはいえ、好いている者にこのような仕打ちをした相手を許せる程、寛大な心は持ち合わせておりません!」
「…………」
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