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時折、何かあったという訳ではないのに…、人肌が恋しくなる程淋しくなる。理由なんて分からないけれど、とても、とても。
「小十郎殿」
柔らかな声で彼は呼ぶ。"自分"を。微笑みを携えて、彼は俺を見ていた。
「……なんだ?」
「いえ、特に何というわけではないのですが。小十郎殿が、珍しくぼーっとしていらっしゃったものですから、」
何かあったのだろうかと思いまして。
緩く首を傾げながら、景綱は問い掛けてくる。誰にも気付かせないつもりであったのだが、俺の些細な行動の変化に彼は気付いた。
(嗚呼、やはり"俺"には何も隠し事は出来ないってか?)
気付いて欲しくはなかったのだが、
(心配を掛けさせたくないから)
その微笑みが優しくて、
(まるで全てを包んでくれるようで)
その言葉が嬉しくて、
(俺の淋しさを癒してくれるかのように)
ついつい口元が綻んでしまう。
「――嗚呼、漸く笑ってくださいました」
「む……?」
柄にも無くきょとんとする俺を見て、彼は嬉しそうに頷いた。
「いつものしかめた顔もそうですが、私はやはり小十郎殿の笑顔がもっともっと大好きです」
だからいつも笑っていて下さい、と俺には眩しいばかりの笑顔で彼は言う。
……嬉しいことを言ってくれるではないか。
彼を引き寄せ抱き締めて。突然のことに僅かに困ったような表情に口付けを落とし。擽ったそうに笑う彼に、俺はまた笑顔を向けた。
【とびきりの笑顔に勝るものはなし!】
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