通り雨

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午前9時55分 『…はぁはぁ…間に合った…』 肩で息を吐きながら 従業員入口へと入った。 通り雨だと思った雨は目的地に近づくに連れてザァーザァーと強さを増し パート先のガランとした駐車場にママチャリを置いた時には全身びしょ濡れだった。 (間に合ったけど…すっごいずぶ濡れ) 歩く度に左右の靴が雨水を吐き出しながらピシャピシャと鳴った。 『ちょっ…と!河本さん!』 幸恵に声をかけた50代前半の女性は 紺色の制服を身にまとい、太めの体を揺らしながら幸恵に掛けよって来た。 『あ、松金さん。雨に濡れちゃって…』 アハハと濡れた頭を触って幸恵は笑って言った。 松金さんは気さくで誰とも仲が良く、仕事の上では幸恵の上司だ。 『あらあら、まぁまぁ~、 濡れてるじゃないの。 自転車で来たの? もう、今日は降水確率90%だってのに 風邪引いちゃうわよ~ほらぁ~。』 おろおろと心配そうな顔をした松金さんは 幸恵にカバンからタオルを差し出した。 『あっ、ありがとうございます。 天気予報見るの忘れてました。』 タオルを受け取ると松金さんにペコリと頭を下げた。 (そっかー。通り雨じゃなかったんだ)
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