通り雨

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『ちゃんと体拭いてから来なさい。 今日は雨だからお客さん少ないし、 フロアは大丈夫だからね。 フロア長にも適当に言っとくから』 にこやかに手をふり松金さんはフロアへと戻って言った。 松金さんはパート歴30年のベテランで フロアの事は熟知している。 仕事場では肝っ玉母さん的な存在だ。 フロア長の不可解な指示にもテキパキと答えて、 店長にも一目置かれた存在なのだ。 人柄もよく、おばちゃん特有の優しさでお客さんからも従業員からも好評であった そんな松金さんの言葉に甘え 幸恵は更衣室でゆっくり着替えていた。 濡れた服を邪魔にならない場所にかけ タオルで髪の毛の水滴を丹念に拭き取った。 カバンの中も少し濡れていたのでサッと拭き取った。 リビングでねじ込んだハガキが雨で インクが少しにじんでいた。 (どうせなら、読めなくなるぐらいにじんでたら良かったのに。そしたら…) ハァー… 重いため息を吐くと しゃがみこんだ体がそのまま床に沈んでいきそうだった。 幸恵はハガキをまたカバンにもどし 半乾きの髪をまた束ねて早歩きでフロアへと向かった。
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