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開いた窓から、風が優しく吹き込む。
机の上に伏してうたた寝していた美波(みなみ)は、揺れた前髪に起こされて、ぼんやりと目をこすった。肩の上から何かがすべり落ちる。
「?」
床に落ちたそれは、白いカーディガンだった。
「起きた?」
「流音、来てたんだ」
これかけてくれたの流音(るね)?
そんな風に聞かなくても、答えが分かる。それくらい、美波と流音の付き合いは長い。
高校の時同じクラスだったことをきっかけに仲良くなって、当然のように同じ大学へ進学し、就職と同時に家族から独立。部屋こそ別々なものの、同じアパートの隣り同士で暮らしている。
ぼんやりと窓の外へ視線を向ける流音の横顔を見つめながら、ふと、いつかの放課後を思い出した。
「カーディガンありがとね」
「うん」
四月の空気は冷たい。
床から拾い上げたカーディガンをそのまま羽織ると、美波は立ち上がって紅茶をいれ始めた。
狭くて、物は多いけれど片付いた部屋の中に、アールグレイ独特の香りが漂う。
「飲むでしょ?」
「もらおうかな。……ね、美波」
「?」
振返ると流音が美波を見つめていた。静かなまなざし。流音はいつもそうだ。いつも静かに、ただ落ち着いて、どこか寂しそうな顔をしている。
「私、恋人が出来たんだ」
「……。え」
一度下に落とした視線を真っ直ぐこちらに向けて、ゆっくりと流音が言う。
「女の子なんだ」
「…そうなの?」
「うん」
カーテンが風に揺れて、ふわり、と広がった。
(そうなんだ)
驚きはしなかった。むしろ、どこかでやっぱりそうなんだと納得する。
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