12人が本棚に入れています
本棚に追加
大学に入って合コンに出席したけれど、女子高育ちで男性としゃべり慣れていない美波は、いつも隅でおとなしくジュースをすする係りだった。
そんな彼女を見兼ねて友達が紹介してくれた人、それが、一也。
素朴な優しさと、美波を見る照れくさそうなはにかんだ視線は、交際歴4年を過ぎた今も変わらない。
美波は流音が泣いた日のことを思い出す。
一也が現れてからの流音はおかしくなった。
美波が外出している日は必ず、誰といるのかメールでそれとなく探りをいれるようになったし、相手が流音の知らない友人だと、納得するまでしつこく聞いた。
彼氏が出来て付き合いが悪くなった友達への、子供っぽい独占欲だと勝手に結論付けた美波がろくに相手をしなくなると、今度は態度が冷たくなった。
「最近流音といると疲れる。流音の一也や私への態度が疲れる。流音と友達でいるのに疲れた」
十二月だった。
送ったメールの返事がこないことにやきもきした美波が流音の家まで行くと、流音は布団にもぐって泣いていた。
顔を見せてくれない彼女と、必死で話をして三時間。
「ごめん」
謝り合っても流音は布団から出ずにただ泣き続けた。
「手を握ってくれないかな」
言われて握った手の熱さ。
このまま触れていたら何かが変わってしまう。
そう思って手を、放した。
「死んじゃいたい」
小さく囁かれた言葉。
聞こえなかったふりをした自分。
最初のコメントを投稿しよう!