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今は忘れよう。今は目の前にいる、相変わらず泣き虫な女の子の事だけ考えよう。
追憶が終わり、背中合わせに座っているランから声が掛かった。
「ヒューイ……これぇ……返すわぁ……」
ランはハンカチをこちらに手渡してきた。
ハンカチ?これもしかして……ハンカチを見るとヒューイの頭文字Hが刺繍されている。
多分十年前の私のハンカチだ。
十年前か。確か……私は泣いているランにこのハンカチで……
「えーと、ランだっけか?泣いてちゃ可愛い顔が台なしだぞ……薬塗れないし」
ランが背中越しにビクッと反応したのが伝わった。しばらくの沈黙……ランが口を開く。
「……ヒューイ……!?あぅ……うちぃ……ぐすっ……可愛い?」
遠い記憶通りの返答に、笑みを浮かべながら続ける。
「ああ、絶世の美少女らしいな」
あの時と同じように、ランの鳴咽が徐々に収まっていく。
私はハンカチを持ちランの正面に回る。
「ほら、涙拭いてやるから手をどけろ」
「……うん……」
手を避けると、あの時より成長した涙に濡れた女性の顔が現れた。
フフ、大人っぽくなっていますが、ぐちゃぐちゃなのは変わらないですねぇ。
ハンカチで優しく涙を拭いてやる。
「ほら……これやるから後は自分で拭けよ」
ランは感極まったのか、また大粒の涙を浮かべる。
「うわあああん!男爵やああああ!!」
ランは号泣しながら、勢いよく飛び付いてきた。
「ラン!屋根の上ですよ!?落ちますから!!」
「そんなん知らんもぉん!男爵ぅぅ!!」
まったく変わってないですね……苦笑しながら落ち着くように、しっかりと抱きしめてやる。
私はあれから変わったんだろうか……?
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