お祭りの終わりにのお話

4/13
72330人が本棚に入れています
本棚に追加
/1092ページ
今は忘れよう。今は目の前にいる、相変わらず泣き虫な女の子の事だけ考えよう。 追憶が終わり、背中合わせに座っているランから声が掛かった。 「ヒューイ……これぇ……返すわぁ……」 ランはハンカチをこちらに手渡してきた。 ハンカチ?これもしかして……ハンカチを見るとヒューイの頭文字Hが刺繍されている。 多分十年前の私のハンカチだ。 十年前か。確か……私は泣いているランにこのハンカチで…… 「えーと、ランだっけか?泣いてちゃ可愛い顔が台なしだぞ……薬塗れないし」 ランが背中越しにビクッと反応したのが伝わった。しばらくの沈黙……ランが口を開く。 「……ヒューイ……!?あぅ……うちぃ……ぐすっ……可愛い?」 遠い記憶通りの返答に、笑みを浮かべながら続ける。 「ああ、絶世の美少女らしいな」 あの時と同じように、ランの鳴咽が徐々に収まっていく。 私はハンカチを持ちランの正面に回る。 「ほら、涙拭いてやるから手をどけろ」 「……うん……」 手を避けると、あの時より成長した涙に濡れた女性の顔が現れた。 フフ、大人っぽくなっていますが、ぐちゃぐちゃなのは変わらないですねぇ。 ハンカチで優しく涙を拭いてやる。 「ほら……これやるから後は自分で拭けよ」 ランは感極まったのか、また大粒の涙を浮かべる。 「うわあああん!男爵やああああ!!」 ランは号泣しながら、勢いよく飛び付いてきた。 「ラン!屋根の上ですよ!?落ちますから!!」 「そんなん知らんもぉん!男爵ぅぅ!!」 まったく変わってないですね……苦笑しながら落ち着くように、しっかりと抱きしめてやる。 私はあれから変わったんだろうか……?
/1092ページ

最初のコメントを投稿しよう!