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「ハッハッハ!まあ今のはですね……」
マイドさんがちらりとこちらを見たので、私は人差し指を口元で立てた。
マイドさん格好付けて下さいと言うように。手渡すように手を出してやる。
「……いえ、マイドマジックですよ!ハッハッハ!私に惚れてはいけませんよ!」
「なんでやねん!けど格好ええわぁ……他にもなんかないんか?」
「ええありますとも。お任せ下さい!」
「おお!?マイドさんやったり!」
「マイドさんファイトだよぉ!」
そんな様子を見ていると、ルシエラさんがマイドさんにのんびりとした足取りで近付いて行った。
そしてなぜか手に持ったさくらんぼを、マイドさんの頭にちょこんと乗せる。
訳が分からない様子のマイドさんはルシエラさんの言葉を待つ。だが当の本人は何も言わずに離れ、距離を取った。
「じゃあ、マイドさん行くわよ~。ナイフ投げ~」
ナイフ片手にニコニコ顔で元気に合図するルシエラさん。無邪気な笑顔で無茶振りをする。
「ナイフ投げ!?なんでいきなり!?はっ……まさか……」
マイドさんはルシエラさんの視線の先を確認し、気付いた。それは……
「まさかこのさくらんぼに当てる気ですか!?」
ルシエラはニコニコと答える。まるで何事もないかのように。
「当たり~。私も活躍したいし~」
「ちょっと待って下さい!ナイフの幅のがさくらんぼより大きいですよ!?せめてりんごで!!」
「え~、りんごじゃあ必ず成功するじゃな~い」
唇尖らせて可愛く言うが、内容は凶悪な確信犯だ。天然では有り得ないのがルシエラさん。
マイドさんはダラダラと汗を流し『ひえー!!』と逃げ出す。
「あら~、動き回って難易度アップだわ~」
マイドさんとルシエラさんの追いかけっこが始まった。
……正確にはマイドさんとナイフの……
「マイドさん頑張り!」
「マイドさんファイトだよぉ」
いつものある勇者亭での光景に、皆笑顔になり楽しく楽しく過ごした。
こうして勇者亭の夜は更けていく。
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