おいでませ勇者亭のお話

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◇ ――あれは四年程前、まだ私が料理長をしていた時のこと。 勇者亭を建てて、もうすぐ半年と数カ月になろうかという時のお話。 いつもの平日……アリスとバイトさんがホールをやり、私一人で調理場をやっていた。 このころから繁盛していたので、私は剣士だった頃鍛えた残像が残る程のスピードを活かし、一人で何人分もの仕事量をこなし続ける。 はぁ……そろそろ料理人雇わないとキツイな。腕っ節の強い奴達なら腐る程当てがあるが、料理に関してはコネがないから困る。 どっかにいい料理人はいないだろうか…… ――そんないつもと変わらぬ勇者亭に変化が訪れたのは、その日の閉店間際の事だった。 お客さんもほとんどいなくなりオーダーも無くなった頃、アリスが血相を変えて慌ただしい足取りで調理場に入って来る。 「お兄ちゃぁぁん!大変!大変だよ!!お客さんがお兄ちゃんの料理食べて、血相を変えて料理長を呼べって言ってるよぉ!」 「アリス落ち着いて下さい。どんな様子でしたか?」 アリスのあまりの慌てぶりを目にし、クレームだろうかと不安になりながらも冷静に対応する。 私まで慌ててはアリスの不安が増すだけだから。 「よく分からないんだけど。興奮した感じで険しい顔をしてて……とにかく料理長を呼べって言われたんだぁ。女の人だったよ」
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