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「ありがとうアリス」
微笑みながらアリスの頭にポンと手を乗せた。
勇者亭を見様見真似で経営し始めてから、辛い事もたくさんあった。けどアリスがいるから頑張ろうと思える。
「本当のこと言っただけだよぉ」
アリスは嬉しそうにはにかむ。
ぐぁ、可愛過ぎる……
アリスも最初の頃は私に全く懐かなかった。それなのに、今ではこれほど懐いてくれるようになって、泣けてきそうな程嬉しい。
――あー、ダメだダメだ。和んでないで、とりあえず今はお客さんを何とかしなければいけない。
女の人ってことはアリスファンクラブの私への嫌がらせの可能性は低いか。
はっ!もしかして先程あまりにもしつこい、アリスファンクラブの男に用意した……
『見た目はトマトの美味しいスープ。しかしその実態は唐辛子死ぬほどがっつり激辛スープ~地獄への招待状~』が間違ってその客に届いてしまったのでは!?
「……アリス。とりあえず行ってきますね」
今は閉店間際なので、お客さんも少ないからすぐにその客は分かるだろう。
「うん……頑張ってね。怒られたらアリスが後で慰めてあげるよぉ」
アリスは心配そうに私を見送ってくれる。
とても嬉しいのだが、なんだかダメ兄になりそうな気がしてならない。
頬をパチパチと軽く叩き、なんとか気分を仕事モードに切り替え、そのままホールに出る。
すると目の前で一人の男が顔を真っ赤にして「水ぅ!」と叫びながら悶絶し転げ回っていた。
今にも口から火が出そうなくらい口が腫れあがり、明らかに顔が真っ赤になっている。
どうやら地獄への招待状は、ちゃんとアリスファンの男に届いたようですね……フフ。
ホールは閉店間際なので、人はほとんどおらず独特の静けさがあった。
私を呼んだ女の人は……あれだろうか。
なんだかこちらをジーッと恐い表情で見てる。同じ歳くらいか?まだ少女と言っていい年齢だと思う。
もしかして、何か変なものでも入っていたのか……
その客の前に行くと、すぐに声を掛けられた。
「あなたが料理長さんですか?」
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