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女性は微妙に標準語とイントネーションが違う喋り方。ブラウンレッドの髪をしていて、チャイナドレスを着ている。
この村では見たことないし……観光客か何かだろうか。
「はい、私が料理長のヒューイと申します。お客様……何か料理でご不満な点が、こざいましたでしょうか?」
なるべく申し訳なさそうな声と表情を作る。こちらの態度も難癖付けられると始末が悪い。
女性は片方の眉をぴくりと動かし、険しい顔になる。
これは手を焼くかも知れないな。
「不満?不満やて?……確かに不満や!!なんやこの料理は!どないなっとんねん!!」
……やはり何か変なものが入ったのだろうか。それとも私の料理の腕がまだまだだったのだろうか。
女性は大きく息を吸い込んでさらに声量を上げてまた叫んだ。
「美味しすぎる!!」
「は?」
全くもって予想外の言葉に唖然とした。そんな私に気付いてないのか、女性は構わず続ける。
「なんやこの絶妙な味付けと、完璧な焼き具合に独創的な組み合わせは!?しかもこんな心に入り込んでくる料理は初めてや!」
女性はいきなりテーブルにバン!と思い切り手を叩き付けた。壊れるのではないかというくらいの音が鳴る。
「どうしてくれんねん!せっかく何度も通ってた三ツ星レストランのシェフに何度も頼み込んで、やっと弟子にしてもらえるようになって、これから向かうとこやのにこんな料理食べさせられて!」
まるで話についていけず、ただただ唖然と聞くだけになってしまう私。
そんな私にその女性はいきなりホールの床に頭をつけ、なぜか土下座をしだした。
「この料理に惚れた!うちはランって言います!お願いしますここで雇って下さい!!」
これがランとの初めての出会いだった。
まるで嵐の様な彼女の言葉を完全に理解するのに、十分はかかった。
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