おいでませ勇者亭のお話

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◇ ――あれからもう四年か。懐かしい。 あの時は本当に戸惑った。まあ結局キッチンの人が足りてなかったのと、ランの強引さに負け雇うことになったから彼女は今ここにいる訳だが。 ランは性格も明るくいい子だというのもあり、すぐに周りやお客さんとも馴染んでくれたので指導するのも楽だったな。 西大陸の料理のレシピも教えて貰えたし、私にとってはプラスな事ばかりだった。 ちなみに三ツ星レストランの弟子の話は、なかったことにと辞表もすぐに出してきたらしい。 ……実にもったいない。 そんな事を思いながら治療を続け、傷の完治を確認してから閉じていた目を開ける…… え? 目を開けて飛び込んで来た光景に驚く。 なぜか目を閉じ唇を少しだけツンと尖らせたランの顔が、少しずつ近づいてきていた。 彼女の閉じられた瞼から覗かせている長い睫毛が、普段はあまり見せない女性らしさを感じさせる。 黙って顔を赤くし少し震えているランの顔はいじらしく、凄く可愛く見えた。 ……じゃなくて! 「ちょっ!ラン!ストップ!いったい何をしようと!?」 ランは私の顔の前数cmの距離で止まり、目を開けぱちくりさせる。 近過ぎる……なんだか急激に顔が熱くなってきた。 「え?キス、やないんか……?ヒューイが目を閉じたから、てっきり」 「キス!?普通目を閉じる立場逆でしょう?」 何という爆弾発言……!というか、そういうことする仲になった覚えがない。 その、嫌とかどうとかではなく、急展開に着いていけないというか……本当何この状況。 「せやからうち、めちゃめちゃ恥ずかしかったんやん……うちからさせるなんて…ヒューイのアホぉ……うちキス初めてやのに」 頬に手を当てクネクネし始めるラン。そしてボソリと呟く。 「……けどうち実はドMやからちょっと燃えた」 ランは恥ずかしさのあまり、顔が茹ダコのように真っ赤になっている。 ……なんか勢いに任せて凄いこと言ってますけど?てかドMって、出会って四年目にして何をカミングアウトしてるんですか!? う……そう言われてみると、思い当たる節が度々あった気がする。 「けどやっぱり。するならヒューイからしてくれんと……嫌や」 普段見せない切なげな表情をし、さらに潤んだ瞳で見つめてくる。破壊力は抜群だ。
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