おいでませ勇者亭のお話

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そういえば私が料理を始めたのは確か……昔僧侶の師匠の命令で始めたんだったな。 当時料理なんて肉や魚を焼くくらいしか、まともにしたことなかった私に『俺は料理はできん!これから毎日お前が作れ!』と命令してきた。 仕方なく用意した私の自信作でも、毎回必ず『まずい!次はもっと上手く作れ!』と怒鳴られていた。 ……それでも文句を言いながらも、残さず食べるのには理不尽さを感じたのを覚えている。何せ褒めた事が一度もないのだから。 まあ、最初の頃は『こんなもん食えるかぁぁ!!』と料理ごとテーブルを、ひっくり返されたこともあったりした。 『じゃあ、自分で作れ!この口だけ僧侶が!』なんてキレたら特大の魔術をくらったのは鮮明に覚えている。その後さらに魔術の結界に三日程閉じ込められ、飲まず食わずで死にかけたのだから…… それに…… 思い出した。過去に自分を認めてくれ信じていた者からの拒絶の言葉を…… 私は誰かに認めてもらうのが、怖いんだろうな。 ……裏切られるのが怖い。 ……けど認めて欲しい。 ……矛盾しているだろうか? 自分の力だけしか信じられない世界で、生きてきた時期があった…… 昔を思い出し、困ったような悲しい複雑な気持ちになった。 「こら!そんな顔すんな!うちは認めてるんやで!あんたの料理の才能は、フェイ料理長より上や。そりゃあんたはまだムラがあるし、技術だけならフェイ料理長のがちと上やけどな」 ランは腕を組んで不満そうな表情をしている。心配してくれての言葉だとは分かる。彼女は優しくてお節介な人だから。 「ただな、うちはあんたが料理長辞めたんは、まだ許してないんからな」 それは当然だ。ランにはちゃんと理由を話してないのだから。私でも納得いかないだろうと思う。 「すみません。私には、まだやらなければいけないことがあるので……それまでは許して下さい」 ランに向けてぺこりと、少しだけ頭を下げた。 「待っといたるから、早よ終わらせや?」 「……分かりました」 そして気まずい空気を吹き飛ばすかのように、明るい笑顔を振り撒きながら問い掛けてきた。 「で?デートはしてくれるんか?」
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