おいでませ勇者亭のお話

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村長が口を開いた。 『腰が痛くて力が出ないよ~~……』 へなへな~っと筋肉の塊からヨボヨボの老人に戻り、地面に横たわってしまった。 それを見たドルチェは構えを解き、全力ダッシュで近づいて弱ってる村長を容赦なく蹴り飛ばし決着したそうな。 その後ドルチェは私に駆け寄り手当てしてくれたらしい。窓からその一部始終を見ていたランは、勇者亭の私のベットへとドルチェと一緒に運んでくれたという訳だ。 ◇ 「ドルチェがアリスにヒューイに料理の腕を見込まれて雇われただけって、説明してくれたわ。それでアリスは機嫌直したみたいやな」 ドルチェナイスフォロー。まあ、ドルチェのせいでサンチェが誤解した訳だから、御礼を言うべきか微妙な所ではある…… 「なるほど……そういえば、二人はどうしたんですか?」 姿が見当たらないのは気になる。ドルチェは知らない所に来た訳だし、私以外に知り合いもいない。 アリスに関しては私から離れようとはしないと思う。旅から帰って来た日は基本的に私にべったりなので。 「あー実はな。アリスが村長を叱りに行った後、ドルチェがキッチンを貸して欲しい言うてな。まあ、貸してあげたんやけど」 ドルチェがキッチンに?見学でもしに行ったのだろうか。料理人なら自分が働く事になるキッチンは気になるだろう。貸して欲しいという事は実践もやってるとか? 「ドルチェな、ヒューイの為になんか料理作ってるみたいなんよ。で……それを見たアリスも一緒に料理作っとるよ……ヒューイの為にな」 ランは心底気の毒そうな顔をしてそう告げた。まるでお通夜にでも参加するような沈痛な表情。 「ア……アリスもですか……?」 アリスの料理は美味しくない。 いや、マズイ。マズ過ぎる……この世の物とは思えない味だ。 ……以前勇者亭でアリスの料理が、どうしても食べたいと頼む男がいた。あまりにしつこいので、仕方なくアリスが作った料理を出してやった事がある。 それを喜んで食べたアリスファンの男があまりのマズさに倒れ、三日程寝込んだ。それくらいの危険度がある殺人級のマズさだ。 男は一口食べただけで顔色が明らかに悪くなっていたが、笑顔のまま完食する偉業を成し遂げた。 『美味しかった』といい顔で言い残してから後ろに倒れた時は、思わず拍手を送ってしまった程だ。 ……アリスファン、なかなか根性ありますね。
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