おいでませ勇者亭のお話

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「ちょっと待ったらんかぁぁぁぁい!!」 隣三軒までは届いたであろう声量の怒声が、この部屋にビリビリと響き渡る。耳を塞ぐ暇もなくキーンとして痛い。 「「 ん?」」 私とドルチェは一斉に声がした方を向く。まあ……予想を違わず険しい表情で、肩を怒らせたランがいた訳で。 「なに二人の世界作っとんねん!!新婚さんいらっしゃ~いか!話しかけづらかったわ!なんか寂しかったし!……てかうちの分の料理はないんかい!!」 ポツンと一人残されていたランの悲しみの絶叫に、私とドルチェは眉をひそめた。 「あぁ、ラン。いたんですか……食事中に大声出すなんて迷惑ですよ?」 「……全くです。非常識なツッコミ女ですね」 「なっ……!ツッコミ女?!うちのことか!?てかヒューイ、あんたさっきうちに一緒に食事しよう誘ったやんか!」 困ったなぁ、やれやれといった顔で相手をする。 「仕方ないですねぇ……ドルチェなんか適当に用意してやってもらえませんか?」 「………………マスターの頼みなら」 「うわっ……なんかドルチェめちゃめちゃ嫌そうやん」 「…………………」 ドルチェは無言で部屋を出て下の階に降り、ランの皿とハンバーグと生卵を一つ持ってきた。 皿にご飯を盛りその上にサラダのレタスを散らす、そしてハンバーグをソースごとぶちまけ最後に―― 「……マスター、いつもの火と風をお願いします」 そう言いながら、二本の指で挟んだ卵をこちらに見せてくる。 「ん?成る程。分かりました」 私の反応を見てから、ドルチェは卵を自分の頭の高さに持ってきて片手で器用に割った。
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