おいでませ勇者亭のお話

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頭に高速で呪文の羅列を浮かべる。イメージはただの文字より、呪文で形を作った画。文字で構成された魔法陣のような画をイメージする。 そのイメージを元に突き出した手から魔力で作った文字を展開。右手に赤の魔力文字。左手に緑の魔力文字。 「風よ!」 魔力を放出した左手の先から風が舞き起こる。そのまま風が生卵を包み、下から押し上げ生卵を空中に固定する。 そして次に右手から次の魔術を放つ。それは―― 「炎よ!」 炎が生卵を囲み燃え上がる。一瞬で生卵は火が通り目玉焼きになった。 そして風はゆっくりと収まっていき、卵はハンバーグの上に崩れずに静かに舞い降りた。 「「ロコモコ完成です」」 私とドルチェは軽くポンと手を合わせる。自分でも驚く程息がピッタリ合った。 詠唱を言葉ではなく、魔力の文字を展開して放つからこそ可能な魔術の同時制御。 どちらも初級魔術だが、二つの異なる魔術の詠唱を一緒で頭にイメージし、さらに魔力の文字にするには超難易度の技術を必要とする。 「ふぅ、やはり二重魔術を使うと疲れますね」 もう少し慣れないと、実戦では使えそうにないな。楽に使えるようになるには、まだ何度も練習が必要だ。 「……マスターお疲れ様です」 そんな私達を見てランは頭を右手で押さえ、呆れた声で独りごちる。 「なんちゅう高度な魔術を……しかも、それで目玉焼きって……アホや」 「……ツッコミ女……食べないんですか?」 「いや食べるけど。うち、どこで食べたらええん?」 ちなみに、残念ながらテーブルは二人だけでいっぱいだ。他だと…… 「「…………床?」」 私とドルチェがまたもやハモる。狙った覚えはないので驚きながら、なんとなく二人で顔を見合わせた。 「床ぁ?本気で言うとんのか!?」 「冗談ですよ。私のベットの上にでも腰かけて下さい」 「……本気ですが、何か?」 「………………」
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