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ランは勢いよく立ち上がり、ビシッとドルチェに向けて箸をお行儀悪くも突き付け、高らかに宣言する。
「絶対ドルチェより料理上手なって、ヒューイに『僕ランちゃんの料理じゃなきゃ食べないもんね!ランちゃんラブリー!!え?ドルチェの料理?はっ……!』って言わせたるからな!言わせたるもんね!」
ええぇぇ!?
反応に困るなんだかよく分からない捨て台詞を言い残し、ダッシュで部屋を出て行った。
階段を物凄い音で駆け降りていく足音が聞こえる。急いでいても律義に、自分の使った食器は持っていったが。
――部屋に静寂が訪れる。さっきまでの騒がしさが嘘だったかのように静まり返った。
「……忙しい人です」
そんな静寂をドルチェの呟きや打ち破る。忙しいか……うん。
「そうですね。けど、ランのあの猪突猛進モードは久々に見ましたよ」
ドルチェに向かって意味ありげに微笑む。
「近頃のランはうちの仕事も普通にこなせるようになり、どこか緊張感に欠け、最初の頃のがむしゃらっぷりが見られませんでしたからね……ドルチェのおかげで、上手い具合に刺激されてくれました」
先程の生き生きしたあの表情。何かに向かって突き進む時のランの爆発力は物凄い物がある。まあ、周りがあまり見えなくなるからフォローも必要だったりはするのだが。
「……マスターは、こうなることを予想していたのですか?」
「えぇ。まあ、あそこまで燃えるとは予想外でしたが……最後は、よく分からないこと言ってましたし。ちょっと冷たくしすぎましたかね……まあ、ランはドMだそうですから大丈夫だと思いますが」
狙い通りにいったと思う。ただちょっと予想を超える効き具合なのが、心配だったりするのが痛い所だ。
けどそんなランの様子を思うと、自然と優しい気持ちなるのは多分――
「ランには才能があります。まだまだ、上を目指してもらわなければいけませんからね。ランには期待してるんですよ。もちろん、ドルチェにもですけどね」
――多分成長を見るのが楽しみだから。自分の事みたいに楽しみだから。私は勇者亭の仲間を家族みたいなものだと思っているから。
「……マスターは意外と教育上手です」
関心したようにこちらを見て、またマスター取り扱いノートに何かを書きこんでいる。
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