おいでませ勇者亭のお話

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「料理長のフェイさんは口下手なので、私がやらないといけませんからね」 必要な事は必ずきちんと言ってくれる方なのだが、言葉が足りない場合が多かったりするのが難儀な所。 たまに何故言ってくれなかったかと聞くと、聞かれなかったからだと返ってくる時がある。まあ、仕事は物凄い出来るからあまり文句も言えないのだが。 ――チラリとまだノートに何かを書き込んでいるドルチェを見る。ペンが速筆ばりのスピードで動いているのでかなりの文字数だとは思うが…… 「前から気になっているんですけど、そのノートにはいったい何が書かれてるんですか?」 気になって気になってしょうがなくなったので、ストレートに尋ねてみるとドルチェは目線だけこちらに向けて書き進めていく。 「……秘密です。もし勝手に見たら、私は実家に帰ります」 ランがいたら『夫婦喧嘩かい!?』とツッコむであろう発言をするドルチェ。 「実家ってあの遺跡ですか……?ドルチェが嫌なら無理に見ないですが」 ――負けじと普通に返すヒューイ。魔術に剣に料理の才能と多才ではあるが、ツッコミの才能はゼロのようだ―― 「……マスター、私に何かあった時はこのノートを見て家宝にして、代々語り継いでもいいです」 「ハハ……考えておきますよ」 本気か冗談か判断しにくい、ドルチェの様子に渇いた笑いを返すしかない私。 「それにしても、私もツッコミ女には負けてられません……」 ん、ドルチェも刺激されたとは……これは嬉しい誤算だ。私もうかうかしてられないな。 執筆の終わったドルチェと中断していた食事を続け、二人して完食した。 「ドルチェごちそうさまでした。さっきのはまた作って欲しいです」 「……はい、分かりました」 ドルチェはいつもと変わらず、嬉しそうに満面の笑顔を見せてくれた。この笑顔を見れるのも私の食事の楽しみの一つになりつつある。 「……あの、マスター?いきなりですが質問があります。私も魔術を使うことは可能でしょうか?」
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