おいでませ勇者亭のお話

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「……ぐうぅ……痛すぎる……デコピンの威力じゃないです……」 あまりのピンポイント狙いな痛みに、途切れ途切れにしか声が出せない。そこら辺にある岩くらいなら、普通に粉砕するんじゃないかと思う……本気で。 咄嗟に未完成ながらも、魔力のシールドを展開していなければ確実に重傷だ。 「………………」 回復系の魔術を使おうにも、これだけ精神が乱れてると集中できそうにない。 ただ痛みに耐えるしかない私に、ドルチェは無言でジーーッと見つめてくる。無言で抗議をしてくる。 出来れば手は出して欲しくなかったなぁ……とは言えそうな雰囲気じゃない。 「あー……分かりました。じゃあ実証はなしで、どういう仕組みか一応ドルチェが説明してくれますか?説はありますが確証はないので」 回復魔術とかなら問題ないのでは……なんて事もとても言い出せる雰囲気ではない。 「……それなら構いません。私のコアは魔王が持つ赤い魔力のみ留めます。それ以外の魔力はコアが拒絶し、私に届く前に弾いてしまうのです」 魔力の拒絶……それはとんでもない代物だ。戦争で兵器として使用されれば、効果は言うまでもない。 特にゴーレムなら肉弾戦では並の兵等では歯が立たないのだから、殺戮兵器として恐れられるのは容易に想像出来る。 しかし、拒絶となると欠点もある。 「じゃあ、ドルチェには回復魔術も効かないですよね……ドルチェは怪我をしたら、一体どうするのですか?」 「コアの魔力で自己修復されるので、コアが無事な限りはどんな怪我でも再生されます」 回復魔術とどう違うのだろうか。自然治癒とは別物なんだろうか。いくつか疑問が浮かぶが、それを尋ねる前にドルチェが続けてくれる。 「……ただ回復魔術と違い、かなりゆっくりとしか回復できません。自然治癒よりは、遥かに早くはありますが」 成る程、戦闘不能になる程の大きな怪我はまずいという訳か。ドルチェがそんな怪我を負うなんて事はまずないだろうが。 「んー……まあ、それなら魔術を使うことは可能でしょう。時間ができたら教えてあげますよ」 「……はい、お願いします」 ドルチェは、礼儀正しくペコリと頭を下げた。 ――ところで、さっきから何か忘れてるような気が……なんだろう。気のせいだろうか? その時思考を遮るように、部屋の扉が二回ノックされてからゆっくりと開いた。
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