おいでませ勇者亭のお話

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扉からそおっと覗き込むように顔を出したのは…… アリスだった。 ア   リ   ス   ? 「お兄ちゃんもう大丈夫?」 心配そうな表情のアリスは、ドルチェが持ってきたのと同じお盆に料理を載せて持ってきたようだ。 料理というかむしろ……いや、なんでもないですとも。あれはきっと美味しい料理ですとも。そうに違いないですとも。 何度も自分に言い聞かせ、一度大きく深呼吸をする。 「アリス?ど、どうぞ遠慮なく入って下さい」 ダメだ、やっぱり落ち着ける訳がない!くぅっ!迂闊!なんて迂闊な私!ドルチェの料理に夢中で、アリスを忘れていたなんて! 冷静を取り繕いながらも心中で自分の不覚さを呪う。 覚えていてもアリスの料理は回避出来なかったかも知れないが、ランという仲間を手放すような愚行はしなかった筈だ。 「お兄ちゃん……顔色が悪くなったけど、まだ痛むのかなぁ?」 こちらに駆け寄り全く悪気皆無な、善意の塊である笑顔を向けてくれるアリスが眩しい。 純度百パーセント心配してくれているのが分かるから、私はこう言うしかない。 「だ、大丈夫ですよ」 「なんだか本当に顔色が悪いよぉ?アリスには遠慮しなくていいんだよ?」 アリスに感づかれないように、何とか笑顔を作る。 「いえ、もう本当に大丈夫ですよ」 「無理しちゃダメだよ?今日はお店休みだしゆっくりしていいんだから。あのね、アリスもお兄ちゃんが元気になるように料理作ったんだ。食べて欲しいんだけど……いいかなぁ……?」 キター!時間よ止まれと私の中の現実逃避君が叫び出す。 そんなこちらの内心を見破った様子もなく、もじもじとしながら上目使いで見つめてくるアリス。 ……可愛い。アリスにファンがいるのも少し分かる。しかし―― 「そのちょっとお腹が一杯で……」 「はぅ……っ!」 アリスはこの世の終わりとでも聞かされたような驚愕の表情をし、辛そうに左手で胸を押さえ出した。 私も罪悪感に胸が張り裂けそうになり、思わず両手で押さえた。 「そか……ドルチェさんの料理は食べられて、私の料理は食べられないんだぁ……仕方ないよね。私の料理なんて美味しくないし……頑張って……作ったんだけどなぁ」 アリスは悲しくてしょうがないと言った様子で俯いて震えている。
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