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これは泣く直前の顔。アリスは嘘泣きじゃなく、本当に泣くので無下に断れない……この状況で断れる男がいたら、見てみたいもんだ。
落ち着け私……もしかしたら奇跡が起こって、この短期間で料理が上達したかもしれない!
……頼むから……してて下さい。
「……というのは冗談で、まだ少し食べたいと思ってたんですよ」
「本当……?無理しなくてもいいんだよ?」
無理しなくていい……何という甘い響き。しかし乗る訳にはいかないのが現実の悲しい所。
「本当ですとも。アリスの料理、上達したか見たいですし」
上達だけ見たいですしという心の声から、なんとか変換出来てよかった。
「やったぁ!凄い頑張って作ったんだぁ。お兄ちゃんには、さすがに敵わないと思うけど……茶碗蒸し!」
一転して溢れんばかりの笑顔になり、はい!と元気よくスプーンを渡してくる。
――茶碗蒸し……ですと?
「が、頑張りましたね……別にもっと簡単なものでいいんですよ?目玉焼き味付け無しとか、ゆで卵とか……さて、いただきます!」
わざわざ難易度高そうなのをチョイスするアリスに涙しそうになる。
なんとか気合いを入れて茶碗の蓋を開けると、すの入っていない綺麗な茶碗蒸しが湯気を立てて現れた。
三ツ葉がアクセントとして乗っており、見た目にも美しい。
アリスの料理はいつも見た目は普通というか、むしろ美味しそうという罠が仕掛けられているのが凄い所だ。
以前作って貰った料理を思い出すと、スプーンを持つ手がプルプル震える。
逃げ出しそうなのを我慢して、恐る恐るパクッと一気に口に入れた。
――口の中がまさに異次元となった……苦みと酸味、甘さと辛さが舌を壊そうと暴れ回っている。
私は無言で涙を流した。今すぐ口を開けば悲鳴しか出ないと断言しよう。
「どうかなぁ?」
無邪気な笑顔が、目から自然と溢れ出てきた涙で歪んで見えた。
待ち侘びるマイシスターの為、なんとか持ち直し言葉を探す。
「とても……新しい……味です……まさに魔王も倒れる味……です」
「褒め過ぎだよぅ。エヘへッ」
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