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始まりと同じ唐突さで再び視界が開けた。
――あ……っ!?
安心した矢先、急に景色が降下して視界が下に落ちた。
視界の端に見える近くなった地面。その近さから、膝をついたのだと分かる。
――何…?
その疑問は直ぐに解けた。
座るまで離れず口元にあった手が離れ、ゆっくりと顔の前に翳される。
手の平に、どろりとした深紅の液体が付着していた。
『時間が…ない』
不意に呟きが聞こえる。その声はまだ若く、悔しさともどかしさが入り混じっていた。
――この人の…声?それにこれは血じゃ…
今まで夢で声を聞いたことは無かった。
映像だけが流れる夢だったのに、今回は声が聞こえる。
妙に現実感のある声と手の平に付着した血。
一体どういう事なのか。
混乱する頭で思ったのは、この人が病気かもしれないという憶測だった。
それを確かめたいと思うのだが、視界は何かに固定されているかのように自分の意思で動かすことが出来ない。
『まだ…まだ死ねないんだ。護らないと――』
息を詰めていると、急に声が膜が掛ったように遠ざかって、私は暗闇に飲まれた。
夢が、覚める。
『…わた…は……大切……な人……と……』
遠のく意識の中、青年の呟きが耳の奥で反響していた。
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