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町の中心をゆるやかに流れる〈ほたる川〉に沿って、サイクリングロードが続いている。
わたしの渡る〈むらさき橋〉の欄干は、最近毒々しいピンク色に塗り直された。
よりによってどうしてピンク色なんだろう?
ほたる川なんて名前負けの汚れた川だけど、赤錆だらけで色が分からなくなった欄干のほうがまだ似合っていてよかったのに。
高校からの帰り道。
この橋を渡ってサイクリングロードに折れ、少し走ったところで自転車を停める。
同じ場所。
わたしの特等席で空を見るのが好きだった。
夕日をうけて紫色に縁取られていく雲や、鮮やかな藍色をまとう山々を川沿いの斜面に座って眺める。
印象的な景色をとどめておきたいと思ったら、バッグから小さなスケッチブックを取り出して鉛筆を走らせる。
わたしがわたしでいられる貴重な時間。
今日は時折強い風が吹いて、ブレザーだけでは寒いくらいだっだ。
風に前髪を乱され視界をさえぎられながら、わたしは遠くを流れていく綿雲を目で追っていた。
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