━胸のおく━

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  焼けた石を飲み込んだように、胸がジリジリと痛い。 『ねこじゃらし』の駐車場での別れ際の醜態を思い起こす。 わたしはどうしようもない大馬鹿だ。 都賀くんを前にして、わたしは……。 『夕樹、いい子だから。 気が強すぎるところあって、冷たいって誤解されたりするけど、ホントは誰より思いやりがあって、ホントにいいところいっぱいあって……。 都賀くんはたぶん夕樹の初恋の人だと思うから。だから……』 だから? わたしは何を望むの? 夕樹を大切にしてくださいって? 『戸叶さんが心配?』 都賀くんは街灯の下でかすかに微笑み、うつむいてそう聞いた。 夕樹が心配なんじゃない。 わたしは……わたしの気持ちが怖いの。 ──わたしは、都賀くんが好き。 たぶん、夕樹と同じ想いで、都賀くんのことが好き……。 ほたる川で出会ったとき、無意識のうちに自分の想いを胸の奥に封じ込めた。 あのとき、夕樹に伝えた言葉を思い出す。 『心の中は自由だと思う』 あれは、わたし自身のために言ったんだ──。     
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