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「…そ…んな…」
榊は呟きながら黒く燃える炎を見ていた。その瞳に光は無く人形の様になっていた
「貴方は早くここから逃げてください」
そんな榊に絢香はそっと語りかけた
「あぁ……わかった」
榊は特に反発する事もなく、力無くそう応えるとノロノロと屋上から出て行った
「……………」
「……なんか、ビックリするぐらいあっさり出てったな、榊」
榊の出て行った屋上の出入口を悲しげに見つめていた絢香に突然声が掛けられた
給水塔裏で置いてけぼりにされた蒼志だった
「…ごめん。助けに出れなくて…………これもやっぱり、昨日の奴と関係あるのか?」
「はい。……榊…くんは…今は多分記憶が改ざんされている最中だと思います」
「……記憶の…改ざん?」
「…はい」
「……えぇっと…ごめん、ちょっと意味が解らない」
「それが……普通の反応ですよ。」
そう言って泣きそうに笑う絢香は、儚くて、いたたまれなくて、目を離せば一瞬で消えてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。
そんな笑顔をみた蒼志は、絢香の方へと向き直り、さっきまで詰問みたいに聞き出そうとした事を忘れ、優しい声で問う。
なぜそんなに悲しげに笑うのか。その訳が、そこに有るような気がして
「なぁ、もういいだろ?…昨日の黒いガスみたいな物の…そして、この黒い炎の事、知ってるなら教えてくれよ?」
「……………」
それでも尚話す事を拒む絢香に、蒼志は再び声を掛ける
「な?」
「…………でも…」
蒼志は、絢香がぽつりと漏らした何かを聞き取れず思わず聞き返す
「……え?」
「でも、高村くんはまだ戻れる所に居ます、まだ戻る道がある。わざわざ『こちら側』に来る必要は………」
そう言った絢香の顔には悲哀が滲み完璧な泣き顔になっていて、瞳に溜った涙は今にもこぼれ落ちそうになっていた。
「………そ」
――――グォォオオオオオオォ!!
絢香の必死の訴えに一瞬戸惑いを見せた蒼志の次の言葉は、大気を震わせる悲しそうな咆吼によって遮られた
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