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炎は絢香の接近に敏感に反応し、大きく腕を上げる
「危ない!!」
瞬間的に次の動作を読んだ蒼志が叫ぶのと腕が振り下ろされるのはほぼ同時だった
逃げられない、蒼志がそう思い、数瞬後に訪れるであろう惨劇に眼を反らしそうになった時、絢香の顔が見えた。
今まさに己を潰さんとする腕を見据えるその顔は、目の前に迫る死に決して怯えてはいなかった
そして呟く、己が活路を切り開く一言を
「―――"深紅の風(スカーレット・エア)"」
まるで数百kgの物を遥か上空から落とした様な鈍い音がひびく。
腕が振り下ろされたことによって舞い上がった砂塵に視界を遮られ、絢香を見付けることの出来ない蒼志が叫ぶ
「くっ!…緋暮!!」
しかし返事はなく、最悪の結果を想像した蒼志がまた叫ぼうとした刹那、一陣の風が吹いた
「…あ…コレは…」
風は一重、二重と重なり合い、砂塵を払い、徐々に視界をクリアにしていく
「あの時の…赤い風…?」
蒼志の頬を優しく撫でる風は、あの時、路地裏で見たものと同じく朱で己が存在を証明していた
そしてコレを操れるのは、蒼志の知るところただ一人である
その事に気付いた蒼志は、慌てて振り下ろされた腕の更に下を見る。
そこには渦巻く何かがあり、その何かが炎の腕を完全に塞き止めていた。
塞き止めていた何かは、尚も己を圧し潰さんと力を増す腕を押し返す程にその力を高めていく
その何かが赤い風の集まった物だと気付くのに、蒼志は数秒かかった
その風の中に人影を確認したとき、蒼志は知らずうちに風の操り手の名前を呼んでいた
「緋暮!!」
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