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絶対的な力で粉砕された炎腕が空に霧散するのを見て蒼志は声を出す。
「……やったのか?」
右腕を粉砕された炎が慟哭をあげる。
その隙を見て、絢香は追撃をかけるため風の足場を蹴り、空中で身体を捻る。そのまま顔と、体と、足の計3箇所を蹴りつける。
トンッ。と軽い音を出し、地上に戻った時には、黒い炎の化け物の存在は限りなく希薄になっていた。
「………すげぇ…。」
そんな一連の動作を見ていた蒼志は場違いな感動を覚えていた。
絢香の連撃は、木の葉が舞い落ちるような、そんな限りなく自然な動きだった。
そのまま振り返り、散り逝く炎を無言で見つめる。
炎が存在を散らしていく、憎悪、怨嗟、そんな負の想いを撒き散らしながら。
「……………終わったのか」
蒼志は、ただじっと炎を見つめていた絢香に少し近寄り、その背中に話し掛ける。
「…………………はい…」
暫くした後、やっと絢香が応える。
その声を聞いて蒼志はようやく絢香に歩み寄る。
振り返った絢香の顔は、戦いに勝利した者の顔とはとても思えない。
昨夜路地裏で見せたような無表情がそこにあった。
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