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気付いた絢香が後ろを振り返る。――もう遅い。
炎の怪物が渾身の力で拳を突き出し、その拳が緋暮を捉えた。
衝撃が屋上を震わせる。
確かにそれほどまでの力で降り抜いた筈の拳は、しかし絢香の前でぴたりと止まっていた。
一瞬遅れて破裂音が響く。
持てる限りの力で奮われた拳は、それ以上の力を持つ何かに完全に防がれた。その代償が炎腕を破砕させたのだ
そして、拳を防いだものの正体は風だった。
信じられない物を見たような顔をする絢香。自分の意志でした事では無いことは、その顔を見れば明らかだった。
熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。――――なのに。
頭だけは異常なまでに冴え渡っている。
だから、この力の使い方も理解できる。
伸ばした腕に更に力を篭める。
すると自分を中心に蒼い旋風が巻き起こった。
前を向くと、驚いた顔をした緋暮と慟哭をあげ、それでも絢香に喰らい付こうとする化け物が見える。
「……いい加減に……」
遠くで自分の声が聞こえる。自分の視界はもう半分くらいは閉ざされている。
だから、最後の力を振り絞り、拳を引く。
腕を限界まで引き絞り叫ぶ
「―――しやがれぇえええええええ!!!!」
叫ぶのと同時に腕を突き出す。
すると、周囲の風を巻き込み、蒼い風が数を増していく。
風は断層を一つ、また一つとどんどん数を増していき、化け物を飲み込んだ時には幾重も重なった断層は嵐そのものだった。
風切り音を撒き散らし嵐が屋上を吹き抜けた後には何も残ってはいなかった。
化け物が完全に消滅したのを確認して蒼志の意識は、今度こそ闇に落ちた。
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