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「ごちそうさま。」
そう言うと少年は椅子から飛び降り、足早に食堂を出ようとした。
金色の髪が軽やかに舞う。その瞳は、将来の英国紳士を保障するかのような紺碧であった。
ちいさな足音が、たたたっ、と響いた。
「お待ちください坊ちゃま、人参がまだ残っています。」
むんず、と後ろ襟を掴まれる。
「わ、ユカリ、何するんだよぉ。」
人参からの逃走が失敗に終わってしまったこの少年は、ティム・ダーヴァレイという。本作の主人公の一人であり、現在ロンドンで大人気の『ダーヴァレイ輸入家具』店長の一人息子である。
鉄道、蒸気船などの蒸気機関の発達により海外とのやりとりが――まさに時代を変えてしまうほど――容易になり、ロンドンの下町で代々細々と家具店を営んできた
ダーヴァレイ家であったが、当代ジョン・ダーヴァレイが23のときに一念発起し、フランス家具の輸入を始めた。
新事業は驚くほど順調に進み、最近ではアジアの家具を仕入れるなど新しい商売の研究に余念がない。
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