序章

3/7
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「何するんだよぉ、と言われましても、『食べ物を残させないようにしてくれ』との旦那様のお言い付けですので。」 後ろ襟を掴んで離さないのはユカリと呼ばれたメイドである。 英国人に比べ明らかに黄色い肌、黒髪、小さく黒い瞳、低い鼻、それらの特徴全てが彼女はこの国の人間ではないと――西洋人でなく東洋人であると――教えている。 「だって……にんじん嫌いなんだもん。」 ティムはいかにも子供のよく使う理由をまさに子供らしく東洋人メイドに伝える。 「だってもBecauseもありません。いいですか、この人参も農家の人たちが朝早くから収穫したものなのです。ぼっちゃまの目覚める何時間も前から。一本一本、丁寧に。それを坊ちゃまは食べ残す、と言うのですか。」 ユカリはそう言うと、ティムに目線をあわせ、じっと見つめる。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!