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トゥルルルル。
部屋に鳴り響く電話の着信音。俺は何気なくその受話器を取る。
「もしもし。桜木ですが」
「雅人だ。達也君、桜が……」
「桜がどうかしましたか?」
「桜が死んだ……」
受話器を置いた俺はマンションを飛び出した。
外はまだ明るい。
なにやら楽しげに話している中学生たちとすれ違い、安売りに身を乗り出す主婦達を通りすぎ、俺は走った。
そしてそのうち目の前に姿を現した建物に駆け込んだ。
患者の名を呼ぶアナウンス。怪我人の体を支えながら歩く看護婦。待合室の椅子に座る人々。
病院という巨大な施設の中で一人の人物を探し出すのは難しい。
俺はインフォメーションセンターの女性に尋ねた。
「神谷院長はどこに?」
「院長なら七階の院長室にいらっしゃると思います」
俺は一言お礼を言い、院長室を目指した。が、急いでいる時に限って……。
俺は改めてそう思わないわけにはいかなかった。
エレベーターを使おうとすれば六階で止まったままだし、階段を使おうとすれば人やら何やらが階段を横一列になって下りてくるし、さらには院長室を探すのに時間を無駄に費やすし、となかなか院長室にはたどり着けなかった。
そんなこんなで時間を潰しつつもやっとの思いで目的地にたどり着いた俺は、ドアを開け、そこに立っている一人の男に歩み寄る。
「雅人さん!何があったんだよ!」
「悪い、どうすることも出来なかった。達也君、君はもう桜に会うことは出来ないだろう」
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